零した酒は戻らない

酔っぱらって言動がおかしくなった太乙真人を清虚道徳真君が洞府まで送り届けた後で関係を持ってしまう話です。
徳乙ですがちょっとだけ雲乙要素もありです。

覆水盆に返らずといえば太公望ですが、太乙のお話です。タイトル他に思いつきませんでした。

前半部分の元ネタはこのツイートです。TwitterでRTされてきたこちらのツイートを見て「酔っ払った太乙がこれ言ったら可愛いんじゃないかな?」というところから妄想が広がりました。

 元始天尊の弟子である崑崙十二仙や、それに並ぶ階位の仙道が集まって酒宴を開いていたある夜のことである。
「それでさあ、滅茶苦茶なんだその宝貝。回路設計は無駄だらけだし、メモリリークはしまくってるし、仙力分散装置の制御設定といったら目を覆うばかりだし、おまけに基盤のハンダ付けも不細工で不格好で見てられなくって。そんなものをメンテナンスする身にもなってほしいってもんだよね」
「はぁ……なんだかよく分からんが大変だのう」
 太公望は先ほどから酔った太乙真人に延々と絡まれていた。卓の上の彼の席の前には、既に何本もの空の酒瓶が林立している。
「それでね、一番腹が立つのがね、そのクソみたいな宝貝を作ったヘッポコな仙道は誰だったと思う?」
「うむ、分からんのう……誰だ」
 聞かれても分かるはずがないので、とりあえず無難な答えを返す。太乙は不作法にも構わず自分の杯に自分で酒を注ぐと、一気にぐいと飲み干して叫んだ。
「私だよ! 千六百年前の私! 誰だよこんな意味の分からない設計にしたのは! 私だよ! 何を思ってこんな無駄だらけな回路にしたんだ! さっぱり分かんないよ千六百年前の私が考えてたことは!」
「ううむ……過去の自分と現在の自分は同じではないからのう。それだけ能力的に伸びた証であろうし」
 太公望の言葉に太乙はうんうんと大きくうなずきながら言った。頬は酒ですっかり紅くなっている。
「そうだよ、よく分かってるじゃない太公望! 過去の自分は他人! そう! でも一番腹立つのは、それが何で今でも動いてて使われてるのってことだよ!? 意味わかんない!」
「うーん、でも自分が作った宝貝が長年大切に使われているというのは嬉しいものなんじゃないかな?」
 向かいの席に座っていた清虚道徳真君がフォローをするように言うと、太乙は分かっていないなと言うように首を振りながら言った。
「あのねぇ道徳、こういう系統の宝貝に使われる技術ってのは日進月歩で進んでいくもんだから、ただ長く使っていればいいってもんじゃないの。一度作ったらそれで終わりじゃなく、定期的なメンテナンスと運用に合わせたこまめな機能改善が要るの。それをこんなに長い間放っておくとか信じられない! 滅多に使わないからって何で誰も思い出さなかったの! 何で私も忘れてたの!」
 再び頭を抱えて叫んだ後、太乙はがっくりと顔を伏せて卓の上に突っ伏した。
「あー、もうやだ。もうこれ新しい宝貝ゼロから作った方が早い。でも面倒臭い。大体他にも開発中の案件が並行して三つあるし……」
「そんなに大変なら、他の人にやってもらえばいいんじゃないかな。太乙一人でしなきゃいけない仕事ってわけでもないんだよね?」
 太公望の隣に座っている普賢真人が口を挟んでくる。が、太乙は突っ伏したまま首を振るように僅かに動かして力なく応えた。
「そうしたいのは山々なんだけどね、処理が複雑すぎて私以外に分かる者が居ないっていうんで、設計者である私にお鉢が回ってきたんだよ。それで今資料読んでるんだけど、それも全く資料としての体を成してなくて、何がどうなっているのか自分でもさっぱり分からなくて解読するだけで一苦労なんだよ。あー何であんなメンテナンス性を考慮に入れない設計にしたんだ昔の私のバカバカバカ……」
 そして顔を上げると再び手酌で酒を注いだ。そして再び一気に飲み干す。
「おいおい太乙、少し飲み過ぎではないのか」
 見かねた太公望が制止しようとするも、太乙は耳を貸さない。そして覚束ない手つきで三度杯を一杯にすると、そのまま一気に煽った。
「うるさいうるさい。これが、うっく、飲まずにいられるかって言うんだ」
「そうは言ってもそのような調子では自分の洞府にも帰れぬぞ」
「大丈夫大丈夫、黄巾力士は自動運転機能付きらから」
「そういう問題ではなくてだな……」
 運転するしない以前に飛んでいる途中で落ちてしまいかねない。そう言おうとしたところで太乙がフラフラと立ち上がった。
「うー、ちょっとトイレ行ってくるー」
 そう言って太乙真人は雲を踏むような足取りで出口とは反対側の方向に歩いて行った。
「ちょっと太乙、そっちは窓だぞ。君、大丈夫なのか」
 道徳が立ち上がると、太乙の身体の向きを出口に変えてやる。太乙はヘラヘラと笑いながら呂律の回らない口で答えた。
「へーきへーき。一人で行けるって」
「あやつ本当に大丈夫なのか」
 太公望は太乙の後ろ姿を見送りながら呟いた。太乙は一度出入り口の横の壁にぶつかった後、フラフラとした足取りで出て行った。
「まあ、トイレはすぐそこだし、歩けるなら大丈夫じゃない? あ、望ちゃん、杯が空になってるよ」
「おお、すまぬのう普賢」
 普賢に勧められるままに太公望は彼の酌を受ける。杯に注がれた酒を飲みながら普賢の様子を見ると、白い肌がほんのりと赤く染まっているようにも見えるが、それ以外はさほど普段と変わった様子はない。が、太公望は彼の傍らに並べられた酒瓶の本数を見てぎょっとした。既に八本が並んでいる。見たところそれらは全て空のようだ。
「おいおい普賢、お主こそ飲み過ぎではないのか」
「えー、そんなことないよー、こんなものまだまだ序の口だって。それより望ちゃんこそ飲み足りないんじゃないの?」
「いや、わしはもう……」
「望ちゃんさっきから全然飲んでないじゃない。折角のお酒の席なんだからさ、もう一杯、ささ、どうぞ」
 普賢が更にもう一献の酌を勧めてくる。これはもう何を言っても無駄だと悟った太公望は勧められるままにその酌を受けた。杯を傾けている時、先ほど厠に行った太乙真人が慌ただしく室内に入ってきた。泣きそうになりながらこれ以上なく狼狽した様子である。
「どうしよう、おちんちんが生えてしまった」
 開口一番の太乙の言葉に、太公望は思わず飲んでいた酒を吹き出しかけてすんでのところで飲み込み、激しくむせかえってしまった。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」
「望ちゃん、大丈夫?」
 激しく咳き込む太公望の背中を普賢がさすった。太公望は卓の上から水の入ったコップを手に取ると一気にその中身を飲み干し、落ち着いたところで太乙を窘める。
「太乙、お主やはり飲み過ぎだぞ……」
「飲みすぎてなんかいない。そんなことより私の股におちんちんが生えてしまったんだ。どうしよう」
「それは大変だねえ」
 太公望の隣の席の普賢が慰める。相手の言葉を無闇矢鱈と否定しないのは円滑なコミュニケーションの基本だが、それでも太公望は突っ込みを入れるのを止められなかった。
「いや、そもそもだな、お主のそれは元々生えているものであろう……」
「違う! さっき用を足しに行ったら何もしてないのに生えていた!」
 否定された太乙は尚のことむきになって反論する。その突っ込みどころ満載な答えに太公望は尚のこと頭が痛くなった。
「いや、何かしたからと言って生えるようなものではないと思うぞそれは」
「だから私は本当に何もしていないと言っている! 何もしてないのに生えた! ああどうしよう……」
 もはや支離滅裂で話が通じない太乙に閉口し、もしかしたら間違っているのは自分の認識の方ではないかと自信がなくなってきた太公望は、額を押さえながら隣の親友に聞いた。
「のう、普賢、実はわしが知らんだけで、あいつ本当は女人だったとかそういうことはないのか?」
「やだなあ望ちゃん、何言ってるの。太乙真人は昔からずっと男だよ?」
「そ、そうか、そうだな……」
 ほっとして胸をなで下ろす。そんな太公望を心配するように普賢は言った。
「大体、仮に女の人だったとしても、急におちんちんが生えてくるわけないでしょう。望ちゃん、君、飲み過ぎたんじゃない? なんだかおかしいよ?」
「いやいや、おかしいのはあいつの方であろうに……」
「酔っている人というのは自分が酔っているという自覚はないものだし、おかしい人というのは自分がおかしいという自覚がないもんだよ、望ちゃん」
「そ、そうか。だとしたらわしは酔っているのか。いや待てよしかしここで酔っていると自覚しているということは実は酔っていないということになる。しかしそれを自覚すると今度はやっぱり酔っているということになるし、それを自覚するとなればわしは酔っていないということになるし、しかしそれを自覚すると酔っていることに……うーむうーむ」
 酒の入った頭で思考の無限ループに入ってしまった太公望にはもはや周囲のことは見えていないようだった。太乙はフラフラとその場を離れ、玉鼎真人と並んで静かに飲んでいた雲中子の元に歩み寄る。
「雲中子ー、私、おちんちん生えちゃった。どうしよう」
「それは大変だ」
「どうしよう、おちんちん生えちゃったよう、困ったよう」
 隣の席の玉鼎は僅かに困惑の表情を浮かべつつも、黙って二人のやりとりを見ている。えぐえぐと泣きながらすがりつく太乙真人の背中をぽんぽんと叩きながら雲中子はあやすように言った。
「大丈夫、すぐに除去してあげるよ」
「本当?」
「本当だ。玉も竿もきれいさっぱり取り除いてあげるよ。だから大丈夫。泣くんじゃない」
「うん」
 なんだか不穏なやりとりに先ほどから静観していた玉鼎もぎょっとした顔になった。彼らの向かいの席で摑み合いの喧嘩になりかかっていた赤精子と広成子も思わず口論を止めて二人のやりとりを凝視する。雲中子は立ち上がると太乙の肩を抱き、そのまま出口に向かおうとした。
「じゃあ、私の洞府で除去手術といこうか。大丈夫、すぐに終わるよ」
「うん」
「待て待て待てー!」
 困惑する一同をよそに二人揃って立ち去ろうとする雲中子と太乙を止めたのは道徳だった。出口を塞ぐように二人の前に回り込むと半ば目を閉じている太乙に話しかける。
「あのねえ太乙、それに雲中子もだ。君ら、自分たちのしようとしていることが分かっているのかい?」
「いやだ、ちんちんいやだ、そこをどいてくれよう」
「そうだぞ道徳、太乙も困っているじゃないか」
 雲中子は飲んでも赤くならない体質のようで、傍から見ると全く酔っているようには見えないが、言っていることはまったく常軌を逸している。いや、そもそも普段から常軌を逸した言動が多いゆえに結局のところは普段と変わらないとも言えるし、だからこそ尚のこと質が悪い。だがいずれにせよこの二人をそのままにしておくことは道徳にはできなかった。
「とにかく太乙、君はもう帰った方がいい。私が洞府まで送るから」
「えー、やだぁ。おちんちんやだぁ」
 もはや普段の知性と明晰な頭脳はどこへやら跡形もなく、酒の前に知能指数を地まで堕とした太乙にめまいを覚えながらも、道徳は雲中子の腕から強引に太乙を引き剥がした。雲中子は特に何も言わずに黙って見ている。
「ほら、帰るよ太乙、ちゃんと歩いて」
「うー」
「真っ直ぐ歩けないなら私の腕につかまって、ほら」
 促すと太乙はしぶしぶと言った様子で道徳の腕に手を回して従った。道徳は見守る一同に向き直ると言った。
「じゃ、私、太乙を乾元山まで送るから。先に失礼するよ」
「おう。すまないな道徳」
「お疲れー」
「あれ、雲中子、お前今日は全然飲んでないのかよ」
 雲中子の席を見た慈航道人が言った。そこに並んでいたのは仙界での宴席に出される腥抜きの料理のみで、酒の類は一切無い。
「ああ。今日の夜に結果が出る実験があるんで今日は料理だけだ。帰ったらその様子を見ないといけないからね」
「じゃあお前、さっきのあれは素面で……」
 慈航道人の顔が青ざめる。が、雲中子は事もなげに否定した。
「仮に酔っていたとしてもそんなことしないよ。健康な人体から意味もなく問題ない器官を取り除くわけがないじゃない」
「え?」
 ではさっきのあれは冗談だったのだろうか。だが、この男が冗談を言う質であったか。どうにも腑に落ちないでいる慈航道人に背を向けて席に着くと、雲中子は残った料理に手を付け始めてそれきり彼のことは放置してしまった。

 他の者達に見送られ、太乙を伴った道徳は宴会場の外に出た。幸いにして道徳はさほど多くは飲んではいなかった。黄巾力士を係留してある場所までくると太乙を彼の黄巾力士の座席に押し込む。次いで自分の黄巾力士の操縦席コックピットに登ると自動運転の追尾モードに設定して、再び太乙の黄巾力士に乗り込んだ。
「一人で乗せたら危ないから、私もこっちに乗るよ」
「うーん……」
 隣の席からもたれかかってくる太乙の姿勢を直させると、道徳は自動運転の行き先を乾元山に設定した。操作盤のタッチパネル上の行き先確定ボタンを押すと黄巾力士は静かに起動して飛び立った。追尾モードを指定した道徳の黄巾力士も後から飛び立ちそのまま太乙の黄巾力士の後に続いた。
 乾元山金光洞に到着した道徳は、隣の席で眠っている太乙を揺り起こすと黄巾力士から降りるのを手伝い、肩を貸して歩きながら洞府内に足を踏み入れた。
「邪魔するよ、太乙」
 ひとまず太乙を寝室まで運んでやると、くりやでどうにか汚れていないコップを見つけ出し、水を汲んで太乙に飲ませてやった。
「じゃ、私はこれで帰るよ。お休み、太乙」
 寝台に腰掛け、大きめのコップから水を飲み終わった太乙に別れを告げて道徳は帰ろうとした。が、その手首を太乙に掴まれて引き留められる。
「人の寝室まで来といて何もしないで帰る気かい?」
「太乙、君、まだ酔ってるんじゃないか」
 腕を掴まれた道徳が窘めるように言った。細いが筋張った太乙の手が掴む力は意外にも強いが、道徳にとってはその気になれば振りほどくのは難しくはない。が、道徳には何故かそれができずにいた。
「確かに酔っ払っているのは否定しないが、それだけだと思われるのは心外だね」
 道徳の腕を掴んだままの太乙が上目遣いに見上げてくる。その目には理性の光が戻って来てはいたが、同時に底知れぬ艶めかしさを含んでもいた。
「前にも言ったけど、友人である君をそういう対象として見たくないんだ」
 太乙のある種凄味の利いた色香に惑わされそうになりながらも、道徳はやんわりと拒絶する。だがそれでも太乙は手を離そうとはしなかった。
「友人であることと肉体関係のあることは同時に成立できないものではないよ。君も知っての通り、雲中子とも時々寝ているけどあいつとはずっと友人だ」
「もしかして、私を君の寝室に引っ張り込むために雲中子に協力を頼んだ? だとしたら、人の親切に付け込んでこういうことをするのは感心しないな」
 先程の酒宴での狂態も、もしかして雲中子と一芝居打ってああいう流れに持っていくための演技だったのではないか、そんな疑惑が道徳の胸によぎる。が、太乙は道徳の腕を掴んだままかぶりを振った。
「そんなことはしないよ。第一、あいつにそんなことを頼んだりしたことで、私の竿と玉を本当に取ろうと思いつかれでもしても困る」
「いくら色々と常軌を逸した言動が多いからって、あいつがそんなことするわけないだろう」
「さてどうだか。あいつ、さほど性欲強くないみたいで、時々私が求めすぎるのに辟易しているみたいだしね。ま、仮に竿と玉を取られても、どのみち私は既に前立腺への刺激だけで射精以上の快楽を得られるから、問題ないといえば問題ないけど」
 そう付け加えると太乙は再び妖しく微笑んだ。そして道徳の手首を掴んだまま、徐に寝台から立ち上がると、彼の目を覗き込みながら言った。
「それに、親切にしてくれるんなら、親切ついでに今夜だけでも私の想いに応えてくれてもいいんじゃないかな?」
 道徳は何も言わずに太乙を見ていた。その目から何を思っているかうかがい知ることは出来ない。太乙は目を細めて道徳の目を覗き込みながら言う。
「それとも、君ももう枯れてしまったクチだっけ?」
「いいや。むしろ反対だ。ここまでされて何も感じるなという方が無理だよ」
「だろうね。君、テストステロン多そうだし」
 太乙は舌なめずりをしながら空いている手を道徳の頬に滑らせた。道徳はその手を拒むことなく続けて言った。
「というか正直、今すぐ君をめちゃめちゃにしてやりたい」
「すればいい」
「駄目だ。そんなことしたら今までと同じで居られなくなる」
「ずっと同じものなんてないよ。無限の時間の中にいる私たちだってゆっくりとだけど変化していくんだ。生き物である以上はそこからは逃れられないよ」
 更にしばしの沈黙があった。やがて沈黙を破って道徳が言った。
「後悔するぞ」
「しないよ」
 それが最終確認だった。道徳は黙って太乙の唇に口付けた。太乙は薄く開いた唇から道徳の舌を受け入れる。
 月明かりしか照らす物のない部屋の中、寝台の脇に立ったまま抱き合い、互いの唇を貪り合う。口付けながら太乙が待ちきれないといったように道徳の太腿に股間を押しつけてきた。
 しばしお互いを貪り合った後、口付けながら太乙が道徳の纏っているスポーツウェアのような道服のファスナーに手を掛け、ゆっくりと下ろしていった。道徳も太乙の服を脱がしてやろうと彼の道服に手をかけたが、肩に装着された宝貝が邪魔になって脱がし方が分からない。道徳が困惑していると太乙がそれに気付き、唇を離すと宝貝を外し始めた。
「うっかり触って誤作動すると危険だからね、私が自分で外すよ」
 そうして外した九竜神火罩を寝台の脇の小机に置くと、ついでその下に纏う黒い道服も脱ぎ始めた。道徳もそれに倣って自分の道服を脱ぎ始める。
 道徳が上半身裸になった頃、全裸になった太乙が道徳の前に膝をつくと未だ脱いでいなかった下衣を寛げ、道徳の逸物を外気に晒した。その大きさを見た太乙が驚きと興奮の入り混じった声を上げた。
「うわ、でか……」
 太乙はうっとりとした表情で道徳の雄にむしゃぶりつく。大きくて到底口に収まりきれないそれを根元から何度も丁寧に舐め上げ、先端だけを口に含んでちゅうちゅうと吸い上げながら竿を両手でこすり上げて愛撫する。その艶めかしい様子と彼の巧妙な愛撫に道徳はぞくりと身を震わせた。
 先端から根元にかけてちゅっちゅっと口付けながら愛撫し、上目遣いで道徳の目を見つめながら鈴口にチロチロと舌を這わせる。それだけで道徳はもはやのっぴきならない状態になった。
「太乙、もう、これ以上我慢ならないよ……」
 かすれた声で告げると自分を見上げる太乙の細い身体を抱え上げ、寝台に押し倒す。もどかしげに残った衣服を脱ぎ捨てると道徳は寝台に上がり、太乙の足を広げてその股間に己のいきり立った逸物をなすり付けた。太乙は恍惚とした表情を浮かべると、股間にいきり立ったものが吐き出す先走りを集め、自らの尻穴にそれをなすり付けて窄まった孔に指を出し入れして慣らし始めた。
「ああ、いいよ……早く君のその大きい逸物で私のことをめちゃめちゃにしてもらいたい……」
 慣らすのもほどほどに指を離すと、太乙の尻穴はヒクヒクと蠢いてその口をぱくぱくと開いたり閉じたりする。道徳は太乙の身をしっかりとかき抱くと、己の逸物をその孔に一気に埋め込んだ。
「ああ、あああ、あああああああ……」
 太乙は大きな声を上げて道徳の身体にぎゅっとしがみつく。道徳はもはや何もかも全てを投げ出して、太乙の細い身体に己の欲を全て打ち付けた。道徳の逸物を全て飲み込んだ太乙の孔はぎゅっと収縮し、彼の全てを包み込んで優しく絞り上げる。
「あっ、ああっ、あああっ、ああああああっ!」
 太乙が道徳の逞しい背中に手を回して大声で歓びの声を上げる。その顔にはもはや一片の理性も残っておらず、ただ一匹の雌の獣と化していた。その様子に道徳の理性もとうに消え失せており、ただひたすらに己の組み敷いた雌の獣の身体を貪り喰う一匹の雄と成り果てる。
「くふっ、くぅう、うぅぅぅぅん……」
 太乙の奥深くに埋め込んだ男根を更に押しつけるようにしてやると、太乙は鼻にかかったような嬌声を上げた。その口に口付けて熱い舌を差し入れてやると、太乙はくぐもった嬌声を上げながら道徳の舌に己の舌を絡めて熱烈な勢いで吸い上げてくる。そのまま深く結合したまま、互いの肉体と口腔内を深く深く貪り合う。
「ううっ、ふぅぅぅ……ん、うぅぅぅぅ……」
 いつしか太乙は己の足を道徳の腰にしっかりと絡めており、もっともっと深く結合せんとばかりに己の腰と相手の腰を密着させ合った。道徳の広い背中に回した太乙の細い腕は、それぞれの汗で滑りそうになりながらも、細いが筋張った骨太の手でしっかりとその引き締まった肉体を抱きしめる。道徳はいよいよ我慢ならずに太乙のその細い腰に容赦なく己の腰を打ち付けた。
「うっ、うっ、うっ、くうぅ、あぁぁぁぁ……っ」
 もはや焦点の合わなくなった目を虚空に向けたまま、太乙が形振り構わぬ悲鳴のような嬌声を上げる。激しくぶつかり合う彼らの腹と腹の間で、太乙の性器は痛いほどに反り返り、先端からだらだらと涎を垂らし続けていた。
「くっ……」
 先に達したのは最早我慢のならなくなった道徳だった。太乙の細い背中を折れんばかりに抱きしめると、恥骨をしっかりと押しつけながら太乙の胎内の奥深くに己の精を一滴残らずぶちまける。太乙は仰け反って口の端から涎を垂らしながら、己の胎内に吐き出される道徳の熱い迸りを一滴残らず受け止めた。
「あ、あ、あああああ、ああああああああ……」
 焦点の合わぬ目で口の端からだらだらと涎を垂らしながら、太乙の細い身体もびくびくと痙攣する。道徳の逞しい腕に抱かれたまま、太乙の身体はびくびくと数分の間痙攣し続けていた。
 そうしてからどのぐらいの時間が経ったろうか。しばらくの間、二人は絶頂の余韻に浸り続けていた。太乙は道徳の背中に腕を回したまま、目を閉じて荒い息を吐き続けていたが、やがて呼吸が整った頃に冷めきれぬ情欲をその顔に湛えて道徳に囁きかけた。
「もっと……もっと君が欲しいよ道徳……君のことを何十年と、いや何百年と想い続けたんだ……こんなものでは到底足りないよ……だからもっと、もっと私の身体に君の証を刻み込んで……二度と消えないぐらいに……」

 それから数日後の事だった。終南山の雲中子の洞府に、沈んだ顔をした太乙真人が訪れた。雲中子は研究室で実験の合間にお茶を飲んでいるところだった。
「雲中子、そのコップに使ってるビーカー……」
「ん? ああ、実験用と飲料用はちゃんと別にしているから大丈夫」
「そうじゃなくて、何かの目玉が浮いてる」
「ああ、さっきバイオキシンβのが落ちたんだな」
 そう言うと雲中子は手近にあったトングのような器具を手に取り、事もなげにコップの中から小さな目玉をつまみ上げ、横にあるペトリ皿の上に置いた。目玉はコロリと転がった後、太乙の方を見た。
「それより、君のその様子だと、折角のお膳立てにもかかわらず失敗だったと見える。即興で思いついた割りには上手く行ったと思うんだが」
 雲中子は何やら緑色の菌糸のようなものが蠢くシャーレがセットされた顕微鏡を覗き込みながら言った。太乙は力なく首を振って言った。
「いや。ちゃんとしっかり、やることやるところまでは行った。それこそ一晩中、狂ったように互いを求め合ったよ」
「なら、良かったじゃないか」
「うん、それはそれで良かったんだけどね、朝起きてからあいつ何て言ったと思う?」
 そこまで言ったところで太乙は手近にあった椅子に腰掛けると、机の上の空いているスペースに顔を伏せ、絞り出すように言った。
「『友達とセックスするのはやっぱり無理だ。君とは友達でいたいからもうこれっきりにして、昨夜のことはお互い忘れよう』だって……」
 そこまで言うと太乙は肩を震わせてすすり泣き始めた。雲中子は相変わらず黙ったまま顕微鏡を覗き込んでいる。
「あれだけ情熱的にやっておいて……うっく……それはないよ……もう今更あいつと友達として接していられる自信がないよ……」
 もうあいつと今まで通りの友人で居られる自信がない。絶対に嫌われた。こんなことしなけりゃ良かった。そう言いながらグズグズと鼻をすすり上げる友人に対して、雲中子は顕微鏡の接眼レンズから目を離さないままに言い放つ。
「君、元々あいつのこと好きだったんだろ。それこそ今更じゃないか」
「心の中で想っているだけの時と、一回やっちゃった後じゃだいぶ違うよ……っく……もう今更元の通りになんて出来るもんか。それを何だあいつ、人のこと好きにするだけしといて……無かったことにしようなんて言いやがって」
 そのままグズグズと鼻を啜り、太乙は嗚咽しながら絞り出すように言った。そんな太乙を見かねた雲中子は接眼レンズから目を離すと太乙に向き直って言う。
「そうは言っても、言い出して離さなかったのはどうせ君の方なんだろう。道徳のせいにするのは違うんじゃないのか」
「ああそうだよ、全て私が悪いよ。そんなこと分かってるよ。だけど、ヒック、分かってはいるけど……振られたんだから、ヒグッ、少しぐらい泣いたっていいだろう……」
 研究室の中では太乙が嗚咽する声だけが響き渡った。雲中子は何も言わずに肩を震わせて机の上に突っ伏して泣きじゃくる友人を見守っている。
 やがて太乙は顔を上げると、机の上にあった紙製の使い捨ての不織布を一枚取ると、大きな音を立てて鼻をかんだ。雲中子は流石に見かねて太乙を咎める。
「おいおい、そんなもので鼻を噛んだら荒れるぞ」
「知るもんか。鼻の前に私の心の方が荒れまくりだよ」
 そのまま更にグズグズと涙を流した後、自分の袖で涙を拭い続け、やがてその涙も涸れ果てた頃、太乙はぽつりと力なく呟いた。
「仙道になったら性欲や愛欲なんてものは自動的に消えてなくなるもんだと思ってたのに、そんなことはなかったんだな。何でなくならないんだろうな……」
 こんなもの邪魔になるだけで要らないのに、と自嘲気味に呟く太乙に、雲中子は聞いた。
「それで? 君は何をしてほしいんだ? 下半身に感情を左右されるのが辛いから本当に去勢してほしいと言うのならお断りだよ。性器を除去したところで性欲はなくならないし、患者の一時の気の迷いで健康な人体を損なうのは私の医療従事者としての倫理に反するからね」
 あと、私が君に抱いてほしい時に困るし、と付け加えて言うと太乙は力なく笑って言った。
「流石にそんなことは望まないし、君がそんなことをするとも思っていないよ。そうじゃなく、ただ慰めてほしいだけだ」
「慰め?」
 太乙が何を言いたいのかはおおむね分かってはいたが、雲中子は敢えて聞き返した。そうすると太乙はそれまで腰を掛けていた丸椅子から立ち上がると、雲中子の元に歩み寄り黙ってその唇に口付けた。雲中子はそれだけで何かを了解したように太乙の背中に手を回して抱きしめ、ぽんぽんと叩くといくぶんか優しい口調で言った。
「わかったよ、太乙。おいで」

《了》

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